15.仕上げは百人一首の暗唱
そんなこんなにより、Bはクラスの中に居場所を確保することができるようになりました。また、まわりの見方も変わっていきました。
「(Bのとなりの席になった)Rちゃんがかわいそう。」
4月当初、Kはそうつぶやきましたが、その後はBに対してクラスメイトの一員であるという態度を見せるようになりました。
そこで、最後の仕上げとして、百人一首の暗唱に取り組むことにしました。
10月半ばのこと。Bに100首暗唱を持ちかけました。
しかし、このときばかりは「はい。」とは言いませんでした。
ちなみに、この時点でBが覚えていた百人一首は、3首ほど。ここから100首はさすがにハードルが高いと感じたのでしょう。
それでも、「先生もいっしょについていてあげるから。」と、ねばり強くがんばろうと促しました。
すると、しばらくして
「ぼく、うまく読めないから、先生がはじめに読んでください、」
と言ってきました。
前向きになったと感じました。
Bの母親は外国籍。日本語は片言しかしゃべることはできません。Bは、日本語はふつうにしゃべることはできますが、母親の影響か、なまりがあります。それも自信がない要因の一つだったのでしょう。
ここから、百人一首の特訓が始まりました。
ちなみに、私はどのクラスを受け持っても、百人一首の暗唱に取り組んでいます。しかし、強制は一切していません。宿題に出したことももちろんありません。私のところに言いに来るのは全て自主的です。
Bだけには100首覚えようと打診しましたが、このようなこと、他の子に言ったことはありません。
それでも、みんな暗唱は楽しいらしく、今年度受け持ったクラスでは全員が100首覚えることができました。
さて、Bですが、気持ちが乗ったときにはどんどん言いに来るのですが、そうでないときは全く来ようともしません。
続かないのです。
これが他の子だったら、強制ではないので別にかまわないのですが、「100首覚える!」と約束した以上、そのままにするわけにはいきません。
「Bくんは、先生との約束なんて、どうだっていいのですね。」
「こんなことだったら、もうやめにしましょう。」
Bはその都度、
「先生、ごめんなさい。」と言って何とかがんばり続けました。時には涙を流しながら。
はじめは、亀のような歩みでしたが、徐々にペースが上がっていきました。
途中からは、私が読まなくてもできるようになり、一気に暗唱していきました。
そして、ついに100首。
私のクラスでは、最後に「儀式」として、みんなの前で一首そらんじることになっています。
10面のさいころを2回ふり、出た目の番号の歌を読むのです。
ですから、何が出るかわかりません。100首覚えたとはいえ、中には忘れたものもあるかもしれません。
果たしてBは──見事、唱えることができました。
その瞬間、クラス中から割れんばかりの拍手がおこりました。みんな自分のことのように喜んでくれたのです。
言葉にならないくらい、うれしい――そんな瞬間でした。 (終わり)
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