2023/05/05

Aくんとの出会い その1

  もう、かなり前のことですが。

「Aくん」という男の子を担任しました。 この子は、かなりの「問題児」と言われてきました。

0.はじまりは「2年生の担任をお願いします」

 校長からそのような打診があったのは3月の下旬。聞けば、2年は、私の苦手な音楽と図工は専科とのこと。これは「おいしいところ」をもらったかな──はじめは、そんなふうに思ったのですが、よかったのはそこまででした。

 その後、新2年に関わってきた先生、よく見てきた先生に子供たちの様子を聞いて回ったのですが、だれからもよい話は出ませんでした。ふつうは、「大変だけど、かわいいところもありますよ。」──どんなに大変でも、多少はこういう感じになるものですが、皆さん、そろいもそろって「真顔」で大変だと言うのです。

 特に、大変なのはA。つづいてBだそうです。

 Aは、1年生の時、席に着いていることはほとんどなかったそうです。そして、授業中、ロッカーの上に登り大声をあげ、担任が対応しきれなくなると職員室や校長室に「隔離」される──これが日常茶飯事だったとのこと。

 ちなみに、この学校の1・2年生の教室は、「離れ」のようなところにあったので、私は、その様子を見たことは一度もありませんでした。「A」という子がいて、大変ということは何となく聞いてはいましたが、そこまでひどい状態だとは全く知りませんでした。

 余談ですが──。

 Y先生と話していたときのこと。

「Aって、1年生の時、ロッカーの上に登っていたりしたそうですね。私は一度も見たことがないのですが。」

 そう言うと、先生は

「そうなんですよ。写真に撮ってあるから見てみますか。」

 見ると、確かにロッカーの上に横たわっています。それだけではありません。Bも席を離れ、扉のかげに隠れるようにしているのです。

 この日は、教科指導専門員の先生による観察授業。担任以外の大人が何人もいるのにも関わらずこの有様。

 絶望的な気分になりました。

  とは言っても引き受けてしまったからには仕方がありません。4月6日には子供たちが来ます。


1.最初の3日間──それで全てが決まる

 どんなに荒れたクラスでも、荒れた子でも、新年度の初日は大人しくしているものです。今度の担任はどんな人か、御しやすいか、それとも──そんな「品定め」をするために。

 Aもそうでした。

 この3日間、私は一切叱らないと決めていました。命に関わるようなこと、人格を否定するようなことであれば別ですが、それ以外の些細なことであれば目をつぶることにしていました。

「この人に叱られるのなら仕方はないが、何でこんな人に注意されなければいけないんだ。」──大人でもそう思うことは多々あります。子供なら、1年の時に叱られ通しだったAやBなら、なおさらそうです。

 人間関係ができあがっていないのに、注意したところで入るわけはありません。

 とにかく「かわいがる」ことだけを心がけました。

 休み時間には、子供をつかまえては「だっこ」をしたり「高い高い」をしたり。

 すると、子供たちは「ずるいずるい」「ぼくにもやって」

 2年生だから当然の要求(欲求)です。しかし、今までもった2年生の中でもこの要求は特別すごいものでした。

 昨年1年間、いかに「かわいがられていなかった」かということが、このことからもわかります。

 さて、この「だっこ」をしているとき、Aはどんな反応を見せるのか──それが私にとって一番の関心事でした。「ぼくにもやって。」と言ってくれればしめたものですが、冷ややかな反応だったら別の方策を考えなければなりません。

 果たして、結果はうれしいものでした。

 すぐに私のところにきて両手を突き出し「だっこ」を要求してきたのです。

「ぼくのことをかまってほしい。」──そういう気持ちが痛いように感じられました。

 これなら、何とかなるかもしれない──そう思った瞬間でした。

 それからも、抱っこしたり膝の上に座らせたり──それをくり返しました。もちろん、Aだけにそれをやったら他の子は焼きもちを焼くでしょうから、特別扱いはしていないという姿勢は示しながら。

 ところで、この学校の校舎は新築1年目で廊下にベンチが設置されていました。スペースが広いので、多くの子を抱きかかえることができます。これは私にとって大きなアイテムになりました。

 とは言っても、現状を簡単に変えることができるわけではなかったのですが。


2.春休みの宿題

 始業式の日。

 春休みの宿題を回収しました。

 持ってくるのを忘れたと言う子もいたりしましたが、2~3日で全ての宿題が私の手もとに集まりました。

 Aを除いて。

 聞くと、Aは、1年生の時、宿題を全くやってこなかったそうです。前の担任はあきらめていたのかもしれません。

 これからもやってくることはないでしょう。

 これは捨て置けません。とは言っても、ほかにもやらなければいけないことがたくさんあるので、宿題に関してはとりあえず目をつぶることにしました。        (つづく)


 今は、児童を抱っこしたり膝の上に座らせたりしたら問題視されがちなので、低学年を受け持ってもこのようなことはしてはいませんが・・・・。


0 件のコメント:

コメントを投稿

学級だより №64