2023/05/05

Aくんとの出会い その2

 3.席に座る

 席に座る──椅子に腰をかける。これをまずはじめの「目標」としました。

「今度の担任は、ぼくのことをかまってくれる」──そういう気持ちを持ってくれたのでしょうか。1年生の時のように反抗して席を離れる、ロッカーの上に登るといったことはありませんでした。しかし、「座る」という習慣がなかったので、一定時間「腰をかける」ということはできませんでした。

 少しすると、椅子から離れ、その場にしゃがみこむ──そんな感じでした。

 それでも、その場を離れロッカーに登っていた1年生の時と比べれば素晴らしい進歩。大いにほめたいところです。

 しかし、全員の前でそれをすることはできません。A以外にとってはそれは当たり前にできていることだからです。「Aくん、席に座ってえらいね。」──などと言ったりしたら「ぼくたちは、みんなそういうふうにしているのに、なんでAだけほめられるの?」となることでしょう。

 そこで、休み時間に廊下のベンチに連れていき、膝の上に乗せながら、

「ねえ、Aくん。Aくんって、1年生の時、椅子に座らないでロッカーの上に登ったりしていたんだってね。」

と話しかけてみました。

 Aは否定しませんでした。そこで、

「だとしたら、今日のこの1時間、席を離れなかったなんてえらいね。これからもそういうふうにしていける?」

 そう言うと「できる。」という返事。

「それはうれしいね。だったら約束だよ。きちんとできたらほめるけれど、もし、できなかったら先生はAくんのことを叱るからね。いいね。」

 それに対してAは「いい。」。

 このことによって、「約束を守ったらほめてもらう。」「約束を違えたら、叱られても仕方がない。」という契約関係が結ばれました。

 この契約関係は大事なことであると考えています。「先生だから叱っていい。」「子供だから叱られても仕方がない。」ではない。叱る根拠を示すべき、叱る関係を作るべきです。

 その後、Aが椅子から離れることはかなり減りました。

 余談ですが──初めて朝からずっと席に座り続けることができた日のこと。Aは5時間目のはじめから舟をこぎ始め、途中から完全に寝入ってしまいました。

 よほど疲れたのでしょう。


4.椅子をまっすぐにして座る

 次の課題は、椅子にきちんと座ること。

 離席することはなくなってきましたが、机に正対することができず、椅子はいつも斜めに向いていました。

 次は、これを直さなくてはいけません。

 これには、となりに座っている女の子(Nさん)に協力してもらうことにしました。

「ねえねえ、Nさん。Aくんって、椅子に座るようになったね。」

 Nさんにそう言うと、その通りとばかり「うん」とうなずきます。

 そこで、

「1年生の時はそうではなかったのだからすごいよね。でも、座ってはいるけれど、斜めを向いているのって格好悪いと思いませんか。先生も注意するけれど、もし先生が気がつかなかったら言ってあげてくださいね。」

 こんなお願いをしました。

 男は女の子に注意されるのは嫌な(恥ずかしいと思う)ものです。実際、Nさんが率先して注意したことはありませんでしたが、それ以来、「斜めがけ」は少しずつ治っていきました。まだまだ十分とは言えませんが。それでも、だいぶよくなりました。

 ちなみに、ここまで1か月ほどかかっています。             (つづく)


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学級だより №64