2023/12/27

Bくんとの出会い その5

 

7,ふらつきを直す
 とは言っても、これで問題が解決したわけではありません。Bの問題行動を改善しなければ、クラスメイトが心底受け入れてくれるわけはないからです。
 まだ、スタートラインに立ったばかりです。
 まずは、朝集会時のふらつきを直す──ここから始めることにしました。
 ある日のこと、Bと二人で話をしました。
「Bくん、Bくん。Bくんって、朝会で校長先生が話をしているとき、きちんと立っていないで、歩きまわったりしているよね。」
 これに対して、Bは否定をしませんでした。黙ってうなずきます。
「でも、それっておかしくないですか。みんなきちんと立っているのに。第一、校長先生に失礼ですよね。」
 これにも、Bはうなずきました。
「そうしたら、Bくん。これからはきちんと立つようにがんばってみませんか。」
 これにもうなずいてほしかったが、果たして──Bは一言、「わかった。」
「うれしいねぇ。では約束だよ。朝会のとき、先生はBくんのこと、前の方からずっと見ています。きちんとできたら、Bくんのこと、いっぱいほめるからね。ダメだったら叱るよ。」
 このことによって、「約束を守ったらほめてもらう。」「約束を違えたら、叱られても仕方がない。」という契約関係が結ばれました。
 Aのときもそうでしたが、この契約関係は大事なことであると考えています。「先生だから叱っていい。」「子どもだから叱られても仕方がない。」ではありません。叱る根拠を示すべき、叱られたことを受け入れられる――そういう関係を作るべきです。
 そして、次の朝会。
 Bのふらつきは直ることがありませんでした。だいたい、この程度の声かけだけでよくなるのなら、こんなに簡単なことはありません。小学校での2年間で培ってきたふらつき。ちょっとやそっとで解消できる代物ではないのです。
 それでも、Bはふらついたあと私に視線を送り、目と目が合うと「しまった。」という顔をし、元の場所に戻る──そういったことが何度かありました。私との約束を守ろうという気持ちだけは感じられました。
 今までがマイナス100点だとしたら、その日はマイナス80点ぐらいはあげられます。
 ということは20点ほどはほめることができるというわけです。
「Bくん、ふらついてはいけないと思ってがんばっていたね。これからも、そうしていけますか。」
「いける。」

8.離任式で
 この取り組みをくり返すうち、Bのふらつきは徐々に解消されていきました。1か月ほど経つと、他の子とあまり変わらないほどになっていったのです。
 そして、5月初めの離任式でのこと。
 離任式は、体育館で行います。そして、離任者の話を聞くわけですが、長い時間かかるので、子どもたちは体育座りをすることになっていました。
 Bは、大柄なためか、体育座りをすることができません。片足は曲げ、もう片足は前に出すようにして座ります。これも直したいところですが、この時は目をつぶりました。
 さて、そのときのB。姿勢はお世辞にも良いとは言えませんでしたが、それでも1時間近く、その場を動くことはなかったのです。Bは離任者とは一切関わりはなく、退屈な時間であったでしょうに。
 その様子を見て、よくここまできてくれた、これならもう大丈夫──そんなふうに思いました。
 しかし、このあと事件が起きたのです。  (つづく)

※「おにぎり学級」への投稿は、今年はこれでおしまいにします。
 読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
 来年も、どうぞよろしくお願いします――できれば、感想など寄せていただけるとうれしいです。

2023/12/25

Bくんとの出会い その4

6.「Bくんって、くすぐりに弱いんだね。」

 子どもたちはまだ3年生。こんな年寄りの私にもスキンシップを求めてきます。足にからみついてくる子、ひざの上に乗ってくる子など。

「先生は〇〇くんの椅子ですか?」

などと聞くと、

「そうです。先生は椅子です。」

 そんな返事が返ってきます。

 さて、その時、Bは何をしていたかというと──席に座ったり、あちらこちら歩き回ったり。

 私のところに来ることは、決してありませんでした。

 そこで、無理矢理ハグをしたり、強引にひざの上に乗せたりしました。

 大柄なB。さすがにおんぶや抱っこは無理ですが、ひざの上くらいなら何ということもありません。

 私にこのようにされたB。どんな反応を示すか、それが一番の関心事でしたが──特別いやがるようなそぶりは見せませんでした。ひざの上に乗っているときなど、私が手を放してもそのまま座り続けていました。

 心地良かったようです。

 この様子を見て、彼は今までそんなふうにされたことがなかったのだろうな──そんなふうに思ったりしました。

 その後は、Bに向かって両手を突き出すと、自分からすすんで私のところに来るようになりました。

 さて、私は元来いたずら好きなので、子どもがひざの上に乗ると、ついくすぐりたくなってしまいます。Bにもそうしました。

 Bは、くすぐりにとても弱いのです。ちょっとさわっただけで大暴れします。でも、いやがっているそぶりはありません。むしろ、もっとやってほしい――そんな感じでした。

 その様子がおかしくて、私はくすぐり続けました。

 子どもたちもその様子がおかしかったようで、みんな大笑い。

「Bくんておもしろいね。」──そういう雰囲気が少しですが感じ取れました。  (つづく)


※「Aくんとの出会い」の時にもふれましたが――今、子どもをおんぶしたり抱っこしたりくすぐったりすることは好ましくないとされていますね。私も、今はやらないことにしています。


2023/12/23

Bくんとの出会い その3

 4.「Rちゃんがかわいそう・・・・」

 それから1週間たち、席替えをしました。はじめの席は、私が決めました。

 Bの席は右の場所にしました。

 
 BのとなりはRという女の子。前年度はBのとなりのクラスだった子です。

 さて、私が席順を発表し、子どもたちがそれぞれの場所に移動したときのこと。

 Rの後ろになったKがこんな言葉をつぶやきました。

「Rちゃんがかわいそう。」

 Kは昨年度、Bと同じクラスだった子です。

 それを聞いて、昨年度のクラスでの立ち位置がわかった気がしました。

 何かと問題行動を起こすB。迷惑を被った子は少なからずいたはずです。そのときの担任も――Bが転入してきたときは教頭に代わり、別の方が担任を務めていました――Bの行動を許すわけにはいかず、注意を重ねていたことでしょう。


5.しかし

 注意をするだけで、事態が改善されるわけはありません。また、全員の前でそれをやり続けていたとしたら、Bは先生から怒られる存在であり、自分たちよりも下の立場だ──子どもたちにそういう気持ちを植えつけてしまいます。

 これではいけません。

 Bは、ほかの全ての子と同じように、このクラスの大事な一員です。そういう立ち位置に立たせてあげなければいけません。そして、それは担任にしかできない仕事です。

 Kの言った一言──「Rちゃんがかわいそう。」──決して発してはいけない言葉です。当然、Bの耳にも入ったことでしょう。

 しかし、これを聞いたおかげで、Bに対する方向性が見えた気がしました。

 とは言っても、見えただけでゴールまでは全く見通すことはできなかったのですが。  (つづく)


2023/12/20

Bくんとの出会い その2

 2.3年生に進級

 私が受け持つことになりました。

 始業式の日。

 校庭でクラス替えの名簿を配り、子どもたちは大体の背の順で整列し、始業式がスタートしました。

 Bはとても大柄。背の順は一番後ろです。

 さて、この始業式の時、Bはどうしていたかというと──案の定、校長の話など聞かず、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、そんな感じでした。

 その時、私は子どもたちの前に立ち、そのBの様子をずっと見ていました。注意はしませんでした。

 式後、この年に異動してきたある教諭から一言、

「先生のクラスには、とっても大変な子がいますね。」


3.はじめの1週間

 そのあと、教室に入りました。

 私は、前年度、半分の子を受け持っていましたし、また、となりのクラスも関わることが多かったので、全員の名前はもちろん、どんな子かといったこともだいたいはわかっていました。

 しかし、となりのクラスの担任は初めてだったので、それに合わせて席は出席番号順にしました。

 Bの出席番号は11番。彼の席は灰色で塗りつぶしたところです。本当は一番前にしたかったのですが、それでもまだ、ここなら見通しがききます。

 このクラスになって、Bは大声を出したり、離席をしたりすることはありませんでした。とは言っても、私が特別な指導をしたわけでもありません。Bが前年度に比べて多少なりとも落ち着いた生活をしたのには──もちろん、ほかの子と比べたら天と地ほどの差があるのですが──理由がありました。

 それは、あとから分かったことですが。  (つづく)


2023/12/16

Bくんとの出会い その1

                                         Bくんとの出会い

0.はじめに

 半年ほど前、このブログにAくんとの取り組みについて投稿しました。

 Aくんを受け持った前の年、私は、3年生の担任をしたのですが、そのクラスにBくんという男の子がいました。

 そして、この子がまた大変――と言われてきたのですが・・・・。今日からは、Bくんについて紹介していきます。


1.Bが転入してきた

 Bは、もともとこの学校に入学したのではありません。はじめは、同じ自治体のN小学校でした。

 そのBが転入してきたのは2年生の1月。

「大変な子がそちらに行きます。お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします。」

 N小の管理職から、事前にそんな連絡があったそうです。

 事実、初日から大変でした。

 この日は、4時間目に登校班ごとの集まりがあり、登校時の約束事などを確認したのですが──その時、Bは席には着かずに机の上に登ったり、大声を発したりするなど、いろいろやらかしてくれました。

 教室でも同じようなことをくり返しました。また、朝会や集会の時には、きちんと立っていることができず、常にフラフラしていました。身支度もとても遅く、体育で校庭に出るのはみんなよりいつも5分ほど遅れていました。給食中のマナーも最悪。「Bくん、きれいに食べて!」──女の子に、よくそういうふうに言われていました。

 ちなみに、この2年生の時、私はとなりのクラスの担任をしていました。

 その時のBのクラスは学級崩壊状態で、担任が途中から休職し、教頭が代わりに担任として入っていました。私は、全ての空き時間、このクラスの算数を担当しました。体育も合同でやりました。そのため、少しですが、Bとは関わりを持っていました。

 余談ですが、私が算数を受け持つことや体育を合同でやることは校長からの指示によるものでしたが、校長は私を校内放送で校長室まで呼び出し、やるようにと命令したのです。いくら上司とはいえ、人にこれだけのことを押しつけるのですから、自分から私の教室に出向き、頭を下げてもよさそうなものだと思うのですが・・・・。

 さて、この時のBですが──算数の時間は、席を離れたり大声を出したりすることはなかったのですが、勉強をしようという姿勢は見せませんでした。また、体育については私と一対一でいるとき(サッカーのパス練習など)は一緒にやったりしましたが、それ以外の時は校庭をフラフラ徘徊していました。

 これらの様子を見て、Bはこちらの指示が通らない子なのではないかと感じました。(つづく)


2023/12/09

雑誌や新聞紙のしばり方

雑誌や新聞紙をひもでしばること、ありますね。

皆さんはどのようにやっていますか。

私は、下のようにしています。

このようにすると、雑誌の束を持ち上げる必要はありません。また、きつくしばることができます。
ぜひ、お試しください。


2023/12/03

消化の実験

「消化」の学習の様子を載せた学級だよりを紹介します。


  6年1組学級だより  No 80 7月11日

理科では、今、「ヒトや動物の体のつくりとはたらき」について学習しています。その最初の授業で「消化」を扱いました。

はじめに、子どもたちにこんな質問をしてみました。

「みなさんは、食べ過ぎておなかが苦しくなったということありませんか? 何人かいますね。では、そういうとき、どうしたらいいですか?」

これに対して「静かにしている」「横になる」「おなかを温める」「胃薬を飲む」といっ

た答えが返ってきました。

次に、こんな実験をしました。

まず、試験管を用意し、その中に片栗粉をといた水を入れました。これは、「おなかがいっぱいで、消化が進まない」状態を表しています。

そこに、ヨウ素液を1滴たらしました。試験管の中の液体は、見る見るうちに青むらさき色になりました。

この試験管に、胃薬を入れます。薬の名は、「第一三共胃腸薬」。この胃腸薬は、数ある胃腸薬の中で、デンプンを消化する酵素が一番多く含まれています(多分)。

この薬を入れ、よくかき混ぜます。そして、しばらくおくと、液体の色は青むらさき色から薄茶色──胃腸薬の色──に変わっていきました。

デンプンが、酵素の力で別のものに変わったのです。

実験のあと、子どもたちにこんな話をしました。

「デンプンは、水に溶けません。ですから、そのままでは体の中に吸収されません。水に溶けるものに変える必要があります。

第一三共胃腸薬は、デンプンを体に吸収できる糖に変えたのです。

ところで、みなさんは、食事のあといつも胃薬を飲みますか? そんなことはしませんね。ということは、体の中に胃腸薬と同じような働きをするものがあるのかもしれません。」

次回は、「消化液」である、だ液や胃液などの学習をします。

ちなみに、いくら薬を入れたとしても、冷蔵庫などで冷やすと色は青むらさきのままです。温度が低いと酵素が働くなるのです。

「夏、冷たいものをいっぱい飲むと、おなかが痛くなることがありますね。胃や腸の温度が低いと、消化が進みません。おなかが痛くなるのは、そういったことも影響しているのです。」


  6年1組学級だより  No 81  7月12日

今日も理科についてです。

先日の理科の時間、理科室でビーカーを使ってご飯を炊きました。

ちなみに、このビーカーは、特別なものではありませんが、食品を扱うために別に保管しているものです。実験クラブでも使っています。

子どもたちには、「ビーカーに見えるかもしれませんが、これは“炊飯器”と言います。」と話しました。みんな大笑い。

「炊飯器」のふたは、「アルミホイル」です。

そして、1合ほどの米を入れて水を注ぎ、「はじめちょろちょろなかぱっぱ。・・・・。」

ビーカーは透明なので、ご飯が炊きあがっていく様子がよくわかります。

数分後、おこげのできたおいしいご飯が炊きあがりました。さっそく試食を。

でも、この時間はあくまでも理科。家庭科ではありません。

「食べ方に条件があります。何回も何十回もかみ続けなさい。すぐに飲み込んではいけませ

ん。」

子どもたち、ひたすらかみ続けていきました。そのあと、味の感想を聞いたところ、全員、

「ご飯が甘くなった!」

そこで、

「かんでいると、つば(だ液)とよく混ざるでしょ。そうすると、デンプンが糖に変わるの

です。この前使った、“第一三共胃腸薬”の成分(タカジアスターゼ)と同じような働きをする成分が、だ液の中に入っているのですよ。」

と話しました。薬の成分と同じようなものが体の中で作られていると知らされ、みんなビックリ。

そんな中、こんな質問が。

「先生、その薬って、だ液から作られているのですか?」

第一三共胃腸薬は、だ液を集め、それを固めて作っている──そう思ったようです。まさ

か、そんなことはないでしょうが・・・・一体、どうやって作っているのでしょうね。

さて、実験はまだ続きます。

「ご飯を口に入れ、逆立ちをします。そして、飲み込みます。ご飯はこのあとどうなるでし

ょうか。」

口と胃をつなぐ「食道」。食道は、ただの「管」ではなく、食物を胃に送る働きがあります。

ですから、逆立ちをしてもご飯は、胃に送られます。

では、ご飯のような固形物ではなく、水などの液体は? これも、同じように胃に到達しま

す。

頭ではわかっていても、実際にやってみるととても不思議な感じがします。


だ液を使った実験には、私自身、若い頃から抵抗がありました。
もう30年ほど前になるでしょうか、薬局でたまたま「第一三共胃腸薬(当時は、「新三共胃腸薬」)」が目にとまり、「もしかしたら、うまくいくかも」と思って試してみたところ、上の学級だよりに書いたとおりの結果が出たのです。また、「酵素は温度が低いと働かない」というのを大学の時に教わった記憶があり、冷蔵庫に入れてみたところ、やはりそのとおりになったというわけです。
授業のネタって、案外、いろいろなところに転がっているのではないかと思います。
教科書どおりばかりでは、おもしろくないですよね。

学級だより №64