2023/05/27

Aくんとの出会い その8

 16.次の日

 偶然ですが、この日、私は看護当番で校門の前に立つことになっていました。すると、Aの母親がAと一緒に学校まで来たのです。

 これは、絶好のチャンスと思い、看護当番の仕事はそっちのけで、Aの母親と話をしました。

 話をした──というよりも、ほとんど一方的に話を聞いたという方が正しいのですが。

 内容はよく覚えていませんが、好意的なものであったことは確かです。

 そして、連絡帳を見てみると、しっかりサインがしてありました。


17.それ以来

 1か月ほどたちますが、サインを忘れたのはただの一度だけ。毎日、きちんとしてくれています。

 それだけではありません。

 それまでのAは、学校に持ってきていないものがたくさんありました。例えば、赤青えんぴつや消しゴム、生活リズム調べ、音楽や図工のバッグなどなど。

 それらを、連絡帳に「持ち物 ○○」と書いておいたのですが──翌日には、きちんと持ってきていました。音楽や図工のバッグもすぐにそろったのには驚きました。

 ちなみに、Aの連絡帳は、Aに書かせず私が書いています。また、配付物や返却物は学校の封筒に入れ(この封筒の表に、「中身を受け取ったら、空にしてお返しください」と書いています)、連絡袋に入れています。        (つづく――次回、最終回です)


2023/05/24

Aくんとの出会い その7

 15.Aの母親と

 何とかつなぎを取りたい──そう思っても、電話には出てくれません。自宅にいるかどうかも定かではありません。

 それなら手紙──そう思ったりもしたのですが、それをAに託したところで母親に届く保証もありません。

 あれこれ考えたのですが、そんな中、学童の存在に気がつきました。

 保護者は、毎日、学童に迎えに来ています──学童の先生に手紙を託せば確実に届くはずです。

 しかし、これにも問題がありました。保護者が封を開け、手紙を読んでくれるかどうか。

 そこで、次のようにしてみました。

 5月末の放課後。書いた手紙を持って学童に行き、担当の先生にそれを母親に渡してもらうようお願いしました。

 そのあと、その手紙を持ってAを呼び、こんな話をしました。

「ねえ、Aくん。これ、ママに渡してもらいたい手紙なんだけれど──中に何が書いてあるか気になりますか?」

 自分のことが書いてあると言われて気にならないはずはありません。そこで、

「開けて読んでみてもいいですか。」

 それに対して、Aはもちろん「読んでください。」

 手紙の内容は下の通りです。


 Aさま

                                                                 ◯◯小学校 〇年〇組担任

                                                                                 ○○○○

 いつもお世話になっております。

 さて、Aくんですが、毎日とてもよくがんばって生活をしています。

 例えば、朝、教室に入るときには、いつも自分からすすんで大きな声であいさつをしてくれます。聞いていて、とても気持ちがいいです。

 朝の支度も、早くできるようになってきました。

 授業中は、黒板に書かれたことをきちんと写したり、担任の話をしっかり聞いたり、よく手を挙げ発表したりしています。字もきれいに書くようになりました。クラスの友達の中には「Aは字がうまくなったね。」と言ってくれる子もいます。

 席をはなれたり、大声を出したりすることもありません。

 休み時間には、友達と仲良く遊んでいます。

 先週は給食当番でしたが、自分の仕事をしっかりやってくれました。ノートなどを配るときには、自分の仕事ではなくてもいつも手伝ってくれます。

 また、このごろは、宿題もきちんとやるようになってきました。この1週間で、わすれたことは一度もありません。ごぞんじかと思いますが。 

 これからも、この調子でがんばってもらいたいと願っています。

 ところで、Aくんの学校生活がさらによいものになるために、お母様にいくつかお願いしたいことがあります。

①連絡帳を見てあげてください。

 連絡帳に書く内容は、ほとんどが宿題のことですが、たまに、持ち物のことやお母様にお知らせしたいことを書くことがあります。Aくんの場合、今、持ってきてもらいたい物がいくつかそろっていません。連絡帳に書いてありますので、毎日、見ていただけないでしょうか。そして、見終わったらサインをしてください。

②手紙を確認してください。

 ご家庭に配付する手紙は、連絡袋の封筒の中に入っています。このごろ、ごらんになっていないようで、かなりたまっています。その中には、記入して学校に提出してもらうものもあります。

③家庭学習カードを見て、サインをしてください。

 子供たちは、朝、登校したら、漢字ノート・計算ノートと家庭学習カードを出すことになっています。家庭学習カードにおうちの人のサインがないと、宿題が終わったことになりません。これも、連絡袋の中に入っています。

  毎日のお仕事のあとでお疲れのところ申し訳ありませんが、Aくんのためにご協力ください。よろしくお願いいたします。

 ところで、

  お母様の携帯に、今まで何度がお電話をしたのですが、つながったのは家庭訪問の前の一度だけです。

  番号は間違えていないと思うのですが・・・・。

  一番つながりやすい時間は何時ごろでしょうか。教えていただけるとありがたいです。

  よろしくお願いいたします。



 自分のことを褒めちぎっています。Aはニコニコ顔。

「Aくん。お母さんが迎えに来たらこう言ってね。『先生から手紙をもらっている。ぼくのことが書いてあるから、ここで(家に帰る前に学童で)読んでね。』って。」

 Aは、私のお願いに即答で「分かりました!」        (つづく)


2023/05/19

Aくんとの出会い その6

 14.宿題は学童と協力して

 今まで家で宿題をやる経験がなかったのに、いきなりやれと言われても、体が言うことをきくわけはありません──考えてみれば当たり前です。

 そこで、漢字・算数のうち、どちらかを学校でやって、残りを家でやってくることにしました。

 Aも承諾してくれました。算数を居残りでやり、漢字は家でやってくることにしました。

 しかし──やってきません。

 ところで──。

 Aは学童に通っているのだから、宿題は学童でやればいいのに・・・・。そう思い、Aに尋ねると

「学童で宿題をやってはいけないことになっています。」

 そう言うのです。

 ちなみに、このころのAは、私に対して、どんな時でも上のようなていねいな言葉遣いをするようになってきていました。

 さて、「学童で宿題をやってはいけない」──そんなはずはありません。

 そこで、一緒に学童に行き、担当者に尋ねてみることにしました。

 すると、

「学童で宿題をやってはいけない──そんなことはありません。ただ、4時までは友だちと遊び、そのあとおやつを食べることになっています。とは言っても、その時間帯に遊びをせず宿題をやってもかまいません。」

とのこと。

 Aは勘違いをしていたようです。

「宿題は10分もあれば終わるものです。遊びやおやつの時間はみんなと一緒にいて、そのあと宿題をやらせてもらえないでしょうか。」

 そのようにお願いしました。

 果たして、次の日。

 Aは、宿題をやってきました。次の日も、その次の日も。

 その後、居残りでやっていた算数も、学童でやるようになりました。     (つづく)


2023/05/17

Aくんとの出会い その5

 11.保護者との関係

 4月の半ばに家庭訪問がありました。

 ここで、保護者とよい関係を作っておきたい──ところですが、そう簡単にはいきません。

 昨年度、叱られ通しのA。Aが叱られるということは、同時にその保護者も批判されているということです。

 当然、学校や担任に対してよい感情があるわけはありません。

 また、学校からの通知(家庭訪問など)が保護者に届いている確証もありません。訪問したが留守──その可能性は限りなく100%に近いです。

 そこで、電話をして確認をとることにしました。ところがなかなかつながらないのです。

 これは推測ですが・・・・。

 前の担任は、何かことあるごとに保護者に通告していたそうです。保護者からすれば、当然おもしろくありません。そのため、学校からの電話には出ない──だったのかもしれません。

 ところが、訪問予定日の数日前、たまたまでしょうが電話がつながりました──その後も、電話がつながったことはありません。

 これ幸いとばかりに、Aのがんばっていることを具体的に話し、

「こういった話を、今度の家庭訪問でお話しさせていただきたいのです。ところで、訪問の通知、届いていますか。」

 これに対して、予想通り届いていないという返事。それでも

「近所のHさんにコピーさせてもらいます。」


12.万事うまくいく──わけはない

 家庭訪問の日。

 初めて保護者と面会しました。

 はじめに、100点のテストを渡し、学校での様子を話しました。ダメなところは一切話さず、よいことだけ具体的に報告しました。

 相手も構えることなく、終始なごやかな雰囲気で話が進みました。

 最後に、宿題を全くやってこないので見てあげてほしいということ、連絡帳の確認と押印をすることをお願いしました。

 保護者も承諾しました。


13.ところが

 期待は全て裏切られました。宿題は全くやってこなかったのです。連絡帳の押印ももちろんのこと、なし。

 私は昨年度、かなりの問題児? Bを受け持ちました――Bについては、後日くわしく投稿します。

 Bはそれなりに大変でしたが、それでも母親はとても協力的でした。その様子を見て「これは何とかなるかもしれない。」と感じました。それに対して、Aの母親はそうではありませんでした。育児を放棄している──そのように映りましたた。保護者が協力してくれなくては、先に進んでいくことはできません。

 目の前が真っ暗になりました──この考えは後日一変するのですが。    (つづく)

2023/05/13

Aくんとの出会い その4

 9.箸の持ち方に挑戦

 私は、どのクラスを受け持っても、必ず箸の持ち方の練習をすることにしています。

 箸の持ち方──これは、本来、家でやるべきことであるとは思うのですが。

 さて、4月当初、このクラスで「合格」と言える子は一人もいませんでした。

 Aの持ち方もひどいものでした。

 そこで、全員にわりばしを渡し、練習に取り組みました。

 ちなみに、正しい持ち方ができるようになるためには、使う筋肉を鍛えなければいけません。できていない子が挑戦すると、親指と人差し指の間のつけ根の筋肉がものすごく痛くなります。

 これを乗り越えるとできるようになっていくのですが──。

  Aはがんばってできるようになりました。

「『オレには無理。』と言ってあきらめるかもしれないな。」──そんなふうに思っていたのだが、よい意味で裏切られました。

10.「2組の○○くんにぶたれました」

 ある日、Aがそのように訴えてきました。

 きっとAにも悪いところがあったのでしょう。けんかの後始末など面倒なことですが、これはチャンスと前向きにとらえ、二人を呼んで話をしました。

 ちなみに、私はこの手の場合、けんかの理由は聞かないことにしています。

「何でそんなことをしたのですか。」

 このように聞くと、必ずこう返ってきます。

「だって、△△くんが『バカ』って言ってきたからです。」

 自分は棚に上げ、相手の悪いところだけ指摘します。100人いたら100人ともそうするでしょう。

 理由を聞くと言うことは、弁明の機会を与えるのと同じことです。これでは反省につながりません。

 だから、理由は聞きません。聞くとしたら、互いに謝り、解決した後にします。

 その代わり、「はい。」としか言えない質問をします。

 こんな感じに──実際は、もう少し手順を踏むのですが。

「◯◯くん、Aくんのことをたたいたんだってね。」 「はい。」

「◯◯くんほどの人がそんなことをするなんて、よっぽどの理由があったんでしょ。」 「はい。」

「でも、今思えば、そんなことをしないで、ほかの方法があったのではないですか。」 「はい。」

「では、たたいてしまったことはまずかったなと思いますね。」 「はい。」

「では、その分だけ謝りませんか。」 「はい。」

 これを聞いていたAにも、

「◯◯くんにたたかれていやだったね。」 「はい。」

「でも、Aくんも◯◯くんが腹を立てるようなこと言ったりしたのではないですか。」 「はい。」

──これらのやりとりを聞いて、だいぶ素直になってきたと感じました。     (つづく)


2023/05/09

Aくんとの出会い その3

 5.「どうせ、オレは『バカ』なんだから」

   初めての漢字練習の日。

 漢字スキルを使って練習をしていったのですが・・・・。

 途中から、「キレ始めて」きました。

「オレは字が下手くそなんだから、やってもしょうがない。」

 そんなことを言い始め、椅子の下にしゃがみこんでしまったのです。しまいには

「オレはバカなんだ。オレはバカなんだ。」

と言いながら、髪の毛を引っぱり──何本抜けたことか。

「そんなことはないよ。きれいに書けているではないですか。」

と言ったところで、聞く耳持たず。

 ちなみに、この日は週末。このまま帰宅しましたが、来週はいったいどうなることやら。本当に困ったなと思った一日でした。


6.それでも

 明くる月曜日。

「おはようございます。」

 Aはいつも通り、ニコニコしながら教室に入ってきました。先週のことはまるでなかったかのように。

 とてもうれしかったのですが、気にもなったので、試しにこんなことをしてみました。

「いやあAくん。今のあいさつ、素晴らしいね。とっても素敵だったので、もう一回聞きたいのだけれどいいかな。廊下に出てやり直してくれますか。」

 そう言うとAくんは

「わかりました。」

と言って、それ以上の声で

「おはようございます!」

──これを聞いてホッとしました。


7.漢字小テストで「100点!」

 週に1度ほどのペースで行っている漢字小テスト。

 Aは、2回目のテストで100点を取りました。「はね」がはっきりしていなかったり、長さが微妙なものもあったりしたので、きちんと採点すれば減点されても仕方のないものでしたが、目をつぶりました。

 もっとも、テストの前に何度も練習していたので、ふつうならこのくらいできて当然なのですが、Aがきちんとテストを受け、がんばって書いたのはうれしいものでした。

 Aは、勉強ができないわけではありません。むしろ、平均以上の力はありそうです。

 このことを母親にも伝えたいもの。しかし、だらしのないA。Aにテストを渡しても、母親に届くかどうかわかりません。

 そこで、

「Aくん、すごいね!

 ところで、Aくん、このテスト預かってもいいですか。あさって家庭訪問があるでしょ。その時に、このテストをお母さんに渡したいんだけれど。」

 そう言うと、Aは「いいです。」と承諾してくれました。

「ありがとう。お母さんにいっぱいほめておくからね。」


8.字をきれいに書く。

「オレは字が汚いから、書くのは嫌だ。」

 そう言っていたA。確かに、絶望的な気持ちになるくらいの字です。読めないものもあります。

 それでも、ひたすらほめ続けました。(ほとんどの)汚い字には目をつぶり、まともな字(きれいな字ではありません)を探しては、◎をつけていきました。

 そうしたところ、少しずつ、少しずつですが、読める字が書けるようになってきました。

 2週間ほどたち、次の段階に移りました。

 注意を受け入れ、書き直すか試してみたのです。

「この字、おしいなぁ。この部分だけ直すととてもきれいになるんだけど、直してみませんか?」

 どんな反応を示すか、期待半分で言ってみましたが、即座に

「わかりました。」

 書き直したのを見ると、多少ですがよくなりました。大いにほめたことは言うまでもありません。

 今(6月)は、4月の頃とは考えられないくらいの字が書けるようになってきています。本人も、自信がついてきたようです。

 もちろん、まだまだですが。                 (つづく)

2023/05/05

Aくんとの出会い その2

 3.席に座る

 席に座る──椅子に腰をかける。これをまずはじめの「目標」としました。

「今度の担任は、ぼくのことをかまってくれる」──そういう気持ちを持ってくれたのでしょうか。1年生の時のように反抗して席を離れる、ロッカーの上に登るといったことはありませんでした。しかし、「座る」という習慣がなかったので、一定時間「腰をかける」ということはできませんでした。

 少しすると、椅子から離れ、その場にしゃがみこむ──そんな感じでした。

 それでも、その場を離れロッカーに登っていた1年生の時と比べれば素晴らしい進歩。大いにほめたいところです。

 しかし、全員の前でそれをすることはできません。A以外にとってはそれは当たり前にできていることだからです。「Aくん、席に座ってえらいね。」──などと言ったりしたら「ぼくたちは、みんなそういうふうにしているのに、なんでAだけほめられるの?」となることでしょう。

 そこで、休み時間に廊下のベンチに連れていき、膝の上に乗せながら、

「ねえ、Aくん。Aくんって、1年生の時、椅子に座らないでロッカーの上に登ったりしていたんだってね。」

と話しかけてみました。

 Aは否定しませんでした。そこで、

「だとしたら、今日のこの1時間、席を離れなかったなんてえらいね。これからもそういうふうにしていける?」

 そう言うと「できる。」という返事。

「それはうれしいね。だったら約束だよ。きちんとできたらほめるけれど、もし、できなかったら先生はAくんのことを叱るからね。いいね。」

 それに対してAは「いい。」。

 このことによって、「約束を守ったらほめてもらう。」「約束を違えたら、叱られても仕方がない。」という契約関係が結ばれました。

 この契約関係は大事なことであると考えています。「先生だから叱っていい。」「子供だから叱られても仕方がない。」ではない。叱る根拠を示すべき、叱る関係を作るべきです。

 その後、Aが椅子から離れることはかなり減りました。

 余談ですが──初めて朝からずっと席に座り続けることができた日のこと。Aは5時間目のはじめから舟をこぎ始め、途中から完全に寝入ってしまいました。

 よほど疲れたのでしょう。


4.椅子をまっすぐにして座る

 次の課題は、椅子にきちんと座ること。

 離席することはなくなってきましたが、机に正対することができず、椅子はいつも斜めに向いていました。

 次は、これを直さなくてはいけません。

 これには、となりに座っている女の子(Nさん)に協力してもらうことにしました。

「ねえねえ、Nさん。Aくんって、椅子に座るようになったね。」

 Nさんにそう言うと、その通りとばかり「うん」とうなずきます。

 そこで、

「1年生の時はそうではなかったのだからすごいよね。でも、座ってはいるけれど、斜めを向いているのって格好悪いと思いませんか。先生も注意するけれど、もし先生が気がつかなかったら言ってあげてくださいね。」

 こんなお願いをしました。

 男は女の子に注意されるのは嫌な(恥ずかしいと思う)ものです。実際、Nさんが率先して注意したことはありませんでしたが、それ以来、「斜めがけ」は少しずつ治っていきました。まだまだ十分とは言えませんが。それでも、だいぶよくなりました。

 ちなみに、ここまで1か月ほどかかっています。             (つづく)


Aくんとの出会い その1

  もう、かなり前のことですが。

「Aくん」という男の子を担任しました。 この子は、かなりの「問題児」と言われてきました。

0.はじまりは「2年生の担任をお願いします」

 校長からそのような打診があったのは3月の下旬。聞けば、2年は、私の苦手な音楽と図工は専科とのこと。これは「おいしいところ」をもらったかな──はじめは、そんなふうに思ったのですが、よかったのはそこまででした。

 その後、新2年に関わってきた先生、よく見てきた先生に子供たちの様子を聞いて回ったのですが、だれからもよい話は出ませんでした。ふつうは、「大変だけど、かわいいところもありますよ。」──どんなに大変でも、多少はこういう感じになるものですが、皆さん、そろいもそろって「真顔」で大変だと言うのです。

 特に、大変なのはA。つづいてBだそうです。

 Aは、1年生の時、席に着いていることはほとんどなかったそうです。そして、授業中、ロッカーの上に登り大声をあげ、担任が対応しきれなくなると職員室や校長室に「隔離」される──これが日常茶飯事だったとのこと。

 ちなみに、この学校の1・2年生の教室は、「離れ」のようなところにあったので、私は、その様子を見たことは一度もありませんでした。「A」という子がいて、大変ということは何となく聞いてはいましたが、そこまでひどい状態だとは全く知りませんでした。

 余談ですが──。

 Y先生と話していたときのこと。

「Aって、1年生の時、ロッカーの上に登っていたりしたそうですね。私は一度も見たことがないのですが。」

 そう言うと、先生は

「そうなんですよ。写真に撮ってあるから見てみますか。」

 見ると、確かにロッカーの上に横たわっています。それだけではありません。Bも席を離れ、扉のかげに隠れるようにしているのです。

 この日は、教科指導専門員の先生による観察授業。担任以外の大人が何人もいるのにも関わらずこの有様。

 絶望的な気分になりました。

  とは言っても引き受けてしまったからには仕方がありません。4月6日には子供たちが来ます。


1.最初の3日間──それで全てが決まる

 どんなに荒れたクラスでも、荒れた子でも、新年度の初日は大人しくしているものです。今度の担任はどんな人か、御しやすいか、それとも──そんな「品定め」をするために。

 Aもそうでした。

 この3日間、私は一切叱らないと決めていました。命に関わるようなこと、人格を否定するようなことであれば別ですが、それ以外の些細なことであれば目をつぶることにしていました。

「この人に叱られるのなら仕方はないが、何でこんな人に注意されなければいけないんだ。」──大人でもそう思うことは多々あります。子供なら、1年の時に叱られ通しだったAやBなら、なおさらそうです。

 人間関係ができあがっていないのに、注意したところで入るわけはありません。

 とにかく「かわいがる」ことだけを心がけました。

 休み時間には、子供をつかまえては「だっこ」をしたり「高い高い」をしたり。

 すると、子供たちは「ずるいずるい」「ぼくにもやって」

 2年生だから当然の要求(欲求)です。しかし、今までもった2年生の中でもこの要求は特別すごいものでした。

 昨年1年間、いかに「かわいがられていなかった」かということが、このことからもわかります。

 さて、この「だっこ」をしているとき、Aはどんな反応を見せるのか──それが私にとって一番の関心事でした。「ぼくにもやって。」と言ってくれればしめたものですが、冷ややかな反応だったら別の方策を考えなければなりません。

 果たして、結果はうれしいものでした。

 すぐに私のところにきて両手を突き出し「だっこ」を要求してきたのです。

「ぼくのことをかまってほしい。」──そういう気持ちが痛いように感じられました。

 これなら、何とかなるかもしれない──そう思った瞬間でした。

 それからも、抱っこしたり膝の上に座らせたり──それをくり返しました。もちろん、Aだけにそれをやったら他の子は焼きもちを焼くでしょうから、特別扱いはしていないという姿勢は示しながら。

 ところで、この学校の校舎は新築1年目で廊下にベンチが設置されていました。スペースが広いので、多くの子を抱きかかえることができます。これは私にとって大きなアイテムになりました。

 とは言っても、現状を簡単に変えることができるわけではなかったのですが。


2.春休みの宿題

 始業式の日。

 春休みの宿題を回収しました。

 持ってくるのを忘れたと言う子もいたりしましたが、2~3日で全ての宿題が私の手もとに集まりました。

 Aを除いて。

 聞くと、Aは、1年生の時、宿題を全くやってこなかったそうです。前の担任はあきらめていたのかもしれません。

 これからもやってくることはないでしょう。

 これは捨て置けません。とは言っても、ほかにもやらなければいけないことがたくさんあるので、宿題に関してはとりあえず目をつぶることにしました。        (つづく)


 今は、児童を抱っこしたり膝の上に座らせたりしたら問題視されがちなので、低学年を受け持ってもこのようなことはしてはいませんが・・・・。


はじめまして

 私は、小学校で学級担任をしています。

 私が担任になったのは、昭和61年。まだまだ若いつもりでいたのですが、気がつけば、定年まであと1年あまりとなりました。

 何の取り柄もない私が、この歳まで曲がりなりにも担任を続けてくることができたのは、一にも二にも子どもたちのおかげです。

 と同時に、何もわからなかった私にいろいろなことを教えてくれた職場やサークルの先輩、そして、出会った本のおかげ。あの方に教えてもらわなければ、あの本に出会わなければ、とっくの昔にリタイアしていた――そう思っています。

 このブログは、そんな子どもたちや先輩、本などから教わり実践してきたことを自分自身の記録として残すために、また、これからの若い方々に少しでも参考にしていただければと思い開設しました。

 これから、週1回程度のペースで投稿していこうと思っています。どうぞ、よろしくお願いします。

学級だより №64